大判例

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東京高等裁判所 平成8年(う)1850号 判決

被告人 鈴木明男

〔抄 録〕

なお、原判決は、「証拠の標目」欄において、「証拠の標目を有罪の判決に示すべきことは刑事訴訟法三三五条一項の規定するところであるが、これとは別に、証拠の作成日、作成者、供述者、供述録取者、丁数を判決に示すべきことを命ずる趣旨の法令は存しないから、これらは除外する」との断り書きをした上で、原判決第二の事実を認定するのに用いた証拠の一部として、単に「供述調書一七通(甲7ないし11、18、19、21(以上はいずれも謄本)、38、39。乙4ないし10)」とだけ記載し、そこに供述者名その他の調書の特定に役立つ事項を一切示していない。そこで考えるのに、元来同法条が有罪判決には証拠の標目を示すべきことを命じている趣旨は、罪となるべき事実をどのような証拠によって認定したかについて、証拠上の根拠を当該事件に即した形で特定明示することによって、その判断が法規の制約に従って厳格になされることを期し、当事者の説得・批判に供し、上級審の審査の便に資する等のためと考えられる。そうだとすると、その目的達成上重要なのは、当該事件について取り調べられた証拠のうち、主としてどの証拠とどの証拠とが有罪認定に供されたのかを、被告人を含む誰もが具体的かつ容易に知り得るような形で特定して明示することでなければならない。したがって、例えば有罪認定に供された供述調書が多数あるときに、それらを単に供述調書と一括表示するだけでは、誰の供述を録取したどの調書を指しているのか容易に知り得ない場合を生ずるのであって、そのようなときには、まず供述者名など調書の特定に端的に役立つ事項を示す等の方法で個々の証拠を分かり易く特定して示すことが重要である。供述者名を一切示さないで、単に「供述調書何通」とする本件のような表示方法は、特定性と分かり易さに余りにも欠けすぎており、前述した法の趣旨を満たさないものというべきである(供述調書の特定上は、供述者名が基本的に重要であり、その点では捜査官作成の報告書その他の書類や鑑定書等の場合と同列には考えられない。)。そうすると、簡易公判手続による審理がされたものではない本件において、原判決がした証拠の標目の記載方法は、同法条の真の趣旨に沿わない違法のものといわざるを得ない。ただ、原判決は、「補足説明」の項を設けて原判示第二の事実を有罪と認めた理由を詳しく説明していて、その中には「樺沢の供述調書五通の謄本、大木健次の供述調書の謄本、斉藤敬之の供述調書二通」ほかの標目が掲げられており、この部分の記載と証拠の標目欄の前記記載とが補い合って主要な供述調書についてはその供述者名を示す結果になっているから、本件においては、右の違法はまだそのことを理由として原判決を破棄しなければならないほどのものとはいえない。

(秋山規雄 下山保男 福崎伸一郎)

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